お酒は、私達人類にとって、最も古くから付き合ってきた嗜好品です。
お酒を飲むと、お酒に含まれるエチルアルコールが、胃と小腸で吸収されます。微量のアルコールが吸収されると、中枢神経のうち抑制系の神経が抑制され、気分の発揚が起こります。この状態は発揚期と呼ばれます。いわゆる「ほろ酔い」のことです。この状態から、さらにアルコールの摂取を続けると、脳全体の神経を抑制し、記憶力や反射、運動協調性の低下を引き起こします。これが酩酊と呼ばれる状態です。
発揚期では、理性や常識の箍(たが)が少し緩むため、創造性の向上が起こります。お酒を飲んでいて、普段なら思いも付かないようなアイデアを突然思い付いた、という経験はないでしょうか[1]。
標準化されていないシステム開発プロジェクトは、多分に創造性を要する作業の積み重ねで構成されています[2]。作業計画の策定から、ライフサイクルさえ不明瞭な状況でのコーディングまで、ありとあらゆる作業において、状況に応じて最もスケジュールに影響しない作業を要求されます。状況に応じるということは、高度な創造性を要求されるということでもあります。状況を確認し、想像できる限りの障害を想定し、それぞれの起こりうる確率を考え、もっともリスクの少ない行動を選択しなければならないからです。
一方で、創造性の発現は、長年の特殊な訓練を受けていない限り、自由に制御できるものではありません。筆者も含め大多数の人間にとっては、創造性とは、神様の気まぐれによって突然湧いてくるものではないでしょうか。
アルコール駆動開発は、常に創造性を要求するような、標準化されていないシステム開発プロジェクトにおいて、創造性を制御する手段として考案されました[3]。アルコール駆動開発の原則は、ただひとつ、『 1日に1回を上限として、創造性を必要とする作業の前に、純アルコール換算で15mlのアルコール飲料を摂取する[4] 』というものです。
最もシンプルで、最も早く効果が得られる、それがアルコール駆動開発なのです。